Happy Birthday





「わたくしの為に、このようなパーティーを催してください、ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
 春の花が綻ぶようにラクスは微笑んだ。



 イザークは苛々していた。
 ラクスの誕生日パーティーは、ラクスに当日までバレずに済んだ。
 見事に成功を納めた。
 だがしかし、このパーティーを一番に企画した人間であるキラは、とうとう来なかったのだ。
(あんなに自信たっぷりに微笑んでいたのはなんだったのだ!)
 イザークは怒りのあまりに、今にも叫びそうになる。その衝動をどうにか抑えていたが、表情にはまるまる出てしまっていた。
 先ほどからイザークに向けて、ラクスが苦笑いを浮かべていることにすら気が付かない。
「イザーク」
 たまりかねたラクスは、怒れる人物の名前を呼んだ。
「…ラクス様」
 何回か呼んで初めてイザークはラクスに気が付いた。
 それでようやく我に戻ることができた。
「キラはお忙しいのですよ、あまり怒らないであげて下さい」
 ラクスはやんわりと、イザークをなだめるように言った。
「ですが、アイツは来ると……」
「貴方も、お分かりになるでしょう?」
 ラクスの発言は最もなことだった。
 キラと立場は多少違うかも知れないが、イザークもキラも地球とプラントの関係をよくしようと奔走している。
 それだけでなく、未だに残る戦争の爪痕を少しずつ癒せるように立ち回っている。
 イザークはそれがどれほど大変なことかと知っている。
 戦うより、困難な道だと言うことも――。
 イザークは小さく溜め息をついた。

「そうですね」
 ラクスの顔を見ていたら、納得するしかなかった。
「本当に今日はありがとう。わたくしはそろそろ戻りますね」
「本当に申し訳ない」
 イザークは肩を落としてラクスに謝罪の言葉を述べた。
そしてラクスの後ろ姿をそっと見送った。
 ラクスの後ろ姿が見えなくなった頃に、イザークが胸ポケットに忍ばせていた携帯が鳴った。
 イザークが携帯を手に取ると、知らない番号からの、というより地球からの通信だった。
 キラからの連絡だと思い、イザークは深呼吸をして通話ボタンを押した。
 声の主はキラの代理人と名乗る、女だった。
 その代理人からの用件をき、イザークは電話を切る。 
 そして急いで違う番号に電話をかけた。




 ラクスはSPをひきつれて歩いていた。
 ラクスを良く知る人物なら、その姿を見たらすぐに気が付くだろう。
 少し悲しそうだと言うことに。
 サプライズパーティーはとても嬉しかった。
 そして、それがキラ提案のものと聞くと、より心が躍った。
 それなりの、提案をしてくれたキラは会場には現れなかった。
 忙しいことはすぐにわかる。けれども、それでも寂しいと感じてしまう。
 そんな自分をラクスは情けなく思い、アイスブルーの瞳を悲しげに揺らした。

 そんなラクスの後ろで、SPの一人に連絡が入った。
 ラクスには聞こえないように話終えると、急ぎ足でラクスの横に並んだ。
「ラクス様、少々宜しいですか?」
 突然話しかけられたラクスは、悲しげな瞳をすぐに引っ込めていつもの表情を作った。
「なんでしょうか?」
 何かあったのかと、不思議そうな瞳をSPに向けた。
 まさにそのとき、警報音が鳴り響いた。
 けたたましい音量で流れる警報音にラクスは警戒の態勢をとり、あたりを見回した。
 SP達はのろのろとラクスを取り囲む。
 ラクスはそのゆったりした動きに、いつもはあんなに素早く動いてくれる人達が?と、信じられなかった。
 一番ラクスの側にいたSPが彼女の腕を掴む。
「こちらへ」
 そう言われて引っ張られたのは、外に通じる扉だった。
 外に出ると吹き飛ばされてしまいそうな強風が吹き荒れていた。
 ラクスが飛ばされないようにSPがその体をしっかりと支える。
「もうすぐです」
 小さく呟かれた言葉にラクスは意味がわからずに、いぶかしげにとなりの人物を見上げた。
 ラクスからは表情は見えない。一体何を考えているのか、と見つめた。
 ふと風の流れがゆるやかになる。気が付くと、先ほどまで鳴り響いていたはずの警報はいつの間にか止んでいた。
「いらしたみたいですね」
 その言葉が言い終わると同時に、大きな影がラクスの瞳に映った。
 その影を認識したラクスは、その美しい瞳を目一杯見開いた。

 見慣れた機影、それはまさしくストライクフリーダムだった――。





 ラクスの目の前に突如現れたストライクフリーダム。
 それのパイロットは、この世界に一人だけ。
 ラクスのとても大切な人、キラ・ヤマトのためにある機体。
 それが間の前にいるということは、それはキラがそこにいるということと同じだ。
 見開かれた瞳はそのままストライクフリーダムを凝視していた。

「ラクス様、お誕生日おめでとうございます」
 SPの声すらラクスの耳には届かなかった。
 それほどまでにフリーダムに心を奪われていた。





「間に合った……」

 カガリに無理やりストライクフリーダムに詰め込まれて、発進させられた。
 操作する前から、すでに目的地は入力されていたらしくオート操縦のような感じでここまできてしまった。

「本当に優秀な補佐だなぁ」

 リーアを思い出してキラはぽつりとつぶやいた。

 少し間をおいて一度目をつぶり、深呼吸をした。
 そしてラクスへとゆっくり手を伸ばす。
 壊れ物を扱うように、とても優しく。

 ラクスは伸ばされたフリーダムの手にゆっくりと乗る
 そろそろとラクスの体を持ち上げて、コックピットの前へと細心の注意を払って運ぶ。
 落とすわけにはいかないと、誰が見てもすぐにわかるほど大切そうにされていた。

 コックピットが開くと、ラクスの目の前にキラが現れた。
 キラはゆっくりとヘルメットをはずして、そして微笑を浮かべる。

「遅くなってごめん、誕生日おめでとう」

 微笑みを浮かべながらも、キラはどこか気まずそうにしていた。
 ラクスはキラを見ずにうつむいていた。それがキラには気になったのだ。

「本当に、ごめん」

 キラはラクスにそっと自分の手を伸ばす。
 伸ばされた手がラクスの頬にふれると、ようやく彼女は顔を上げた。
 その瞳にはたくさんの涙がたまっていた。

「ラクス……!」

 名前を呼んだが言葉は続かない。
 無意識のうちにキラはラクスの腕をとり、その体を自らの方へと引き寄せた。
 ラクスは無抵抗で、キラの腕の中にすっぽりと収められた。
 その瞬間キラは、コックピットを閉じる。
 ただでさも目立つ登場の仕方、というか存在なのだからせめて自分たちは目立たないようにと。

「ごめん」

 キラはそれ以上の言葉をつむぐことは出来ない。
 依然ラクスは涙を流したまま、口を開くことはない。
 キラはそっとラクスの頬に唇を寄せて、流れるそれをぬぐうように口付けた。
 そっと広がったキラのぬくもりが、ラクスの涙を余計に増やす。
 しかし、ようやくラクスは口をひらく。
 しゃくりあげているため、うまく話せないけれど、一言一言、伝わるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……パーティーだけじゃなくて、来てくださってくれて、本当に……ありがとう」

 言い終えると、はじめてキラの方へ顔を上げて微笑みを浮かべた。

「ラクス……」

 キラは安堵のため息をついて、ラクスの頭を優しく撫でる。

「遅くなって本当にごめんね」

 その言葉にラクスはゆっくりと首を横に振る。

「いえ、来てくれただけで本当に嬉しい……」

 キラはもう、現れないと思っていた。
 現れるわけがないと。

「お忙しいのに……」
「仕事よりラクスの誕生日の方が大事だよ」

 一年に一度しかないその日は何よりも大切な日なんだ、とキラは続けた。

「仕事はどうにかなったし、ね」

 ラクスに心配をかけないように、にこりと微笑むとラクスの体をぎゅっと抱きしめる。

「ちょっと、移動したいから?まっていてね。狭くてごめんね」

 一人乗りのガンダムに二人で乗るのはなかなか窮屈なのだ。

「大丈夫ですわ」

 ラクスは涙を拭って笑みを浮かべ、キラの邪魔にならないよう遠慮がちにキラに?まった。




 宇宙空間へ飛び出ると、ようやく機体をとめた。

「ここでいいかな」

 その言葉を受けてラクスは?んでいた手を離した。

「こうやって二人でいると、いつかを思い出しますわ」

 ふふっ、とラクスは楽しそうに笑う。
 その言葉を受けてキラもそのときのことを思い出した。

「そうだね」

 あれからいくつかの時がすぎ、たくさんの悲しみや怒り憎しみの中にある今現在の位置は、あのころでは決して想像は出来なかった。

「キラにお会いできて、わたくしはとても幸せです」

 臆面もなくいうラクスに、キラは少し照れ笑いを浮かべた。

「それは、ぼくもだよ」

 二人はしばらく見つめあい、どちらともつかずに顔を寄せ、そして唇を重ねた。
 深いキスの後、ゆっくり離れたキラは言葉を紡ぐ。


「誕生日おめでとう。君が生まれてきたこの日に、そして君のお父さん、お母さんにとても感謝するよ。」

 一通り言葉を発するとキラは何かを話そうとしたラクスの唇を自らのそれでふさいだ。

 二人は、お互いの存在を何より強く感じた。



「生まれてきてくれて、ありがとう」

 キラはラクスの耳元でそっと囁いた。


END

BACK




あとがき。

結局手直しはせず・・・(−−;
ちょっと長さ調節くらいはしましたけど…。
設定についてはいずれ改めて書きます。
一応blogにメモ、載せました。