星に奉げるレクイエム
「君に、会いに来たよ」
それは愛のささやきではない。
瞳に宿るのは優しさではなくて、どこか悲しそうで、悔しそうなそんな瞳。
優しそうに微笑むのは、わたしじゃないわたしにだけ。
「嬉しいですわ」
どういった意味で言われているか、わたしは理解している。けれど、この言葉に嘘は無い。
彼は『わたし』に会いに来てくれた。そう思うだけで、自然と顔が緩む。
いつからか、彼の人があの子に向ける視線にうらやましいと思い始めた。
同じ顔、声なのに、わたしをわたしとして必要としてくれる人はいないことに、そのとき初めて気がついた。
デュランダルは、私を必要としているけれど、それは私じゃなくて歌姫と同じ容貌をした『ラクス・クライン』で、中身なんて誰でも良い。
わたしじゃなくても良い。
それなのに、彼の人は言う。
彼女が良い。と。
同じ顔をして、同じ声を持っている私には決して見せない眼差しをその子には向けるのだ。
最初は彼をおびき寄せるためで、それが与えられた生きる理由だったから。
いつしか、胸の中に理解の出来ない感情が生まれた。
わたしはその感情の名前を知らない。
そして、あの男(ヒト)には教えたくないと思った。
「そんな風に、笑わないで…」
そう告げながら、瑠璃の瞳が一層悲しそうに揺れる。
「キラが、わたくしに何をしにきたのか……わかります。けれど、嬉しいのです。『わたくし』に会いに来てくださったことが」
覚悟はしていた。
この不思議な気持ちに触れるたびに、この人になら…と思ったのだから。
「あなたに会えて幸せだと、思いましたわ。そして、あなたは初めてわたくしをわたくしとして認識してくださいました」
造られた存在同士、分かり合えるだろう。
そういったのはあの男。未だに何を考えているのかわからない。
もしかしたあの男はキラが自分を撃つことなんて出来ないとでも思っているのだろうか。
そう考えると、可笑しくなった。
「一思いに……わたくしをたった一人の……歌姫ではないわたくしと認識してくださるのなら……。ただ、一度だけ…」
「何?」
キラは相変わらず哀しそうな瞳でわたしを見ていた。
そんな顔見たくはないけれど、わたしがわたしとして存在している以上その顔は晴れることはないのかも知れない。
「名前を呼んでください」
「え…?」
彼は戸惑いの表情を浮かべる。
わたしの名前は彼の大切な人の名前。
一度として名前を呼ばれたことは無かった、だからせめてと……祈るように目をつぶる。
「……ラクス」
少しためらいがちに発せられたその音に、わたしのこころに優しい風が吹いた。
そして次の瞬間私の耳に届いたのは、銃声だった。
崩れ落ちていく意識の中で、彼の表情を探す。
今にも泣いてしまいそうな瞳で、こちらを見ているのが見えた。
だから、わたしは笑った――