聖なる夜に





 街はイルミネーションに包まれて、キラキラと輝いていた。
 そして無数の光に照らされた雪が、ひらひらと舞い降りてきた。
「雪だ…」

 ぽつりと呟くと、雪の結晶を見つめた。

 白い息をつきながらキラは急いで歩いていた。
 寒さに白いマフラーを巻きなおした。


目的地は施設。


そこにはたくさんの戦災孤児が暮らしている。
そして、キラとラクスもそこで暮らしていた。と、言っても忙しくて二人ともまともに
帰れてないのが現状だった――。

今日は久しぶりに二人共施設に帰ってきていた。それは大切な子供達と、この聖なる夜
を過ごすため。

子供達やラクスが待っていると思うと、自然と足取りも早くなる。
手荷物は少し重いけれど、笑顔を思えばなんてことなかった。
子供達の施設は街からは少し離れていたが、さほど遠くもないのですぐにたどり着い
た。

 施設からは優しい光が溢れて、子供達の笑い声や歌声がこぼれていた。

一呼吸おいて、キラは扉をあけた。








 パーティが終わり後片付けが終わると、ようやくキラとラクスは落ち着くことができ
た。

「やっぱりラクスの歌はすごいね」
ぎゃーぎゃーと騒いでいたなか、ラクスが歌い始めると今までの嵐が嘘だったかのよう
に静まり返ったのだ。
キラはそれを見て、さすがだな、と改めて思ったのだ。

「すごくなんてないですわ」

 ラクスは謙遜でもなく、本当にそう思っている。
 だからこそ厭味には聞こえない。

「そうかな? 僕はラクスの歌声に何度も癒されたよ」

 キラはそういいながら、隣に座っていたラクスを抱き寄せる。
 突然抱き寄せられて、ラクスは思わずあたりを見回した。

 子供たちは眠ってしまったし、マルキオやガリタも自室へ戻っている。

 それはわかっていたけれど、それでも確認せずにはいられなかった。


「ありがとう」

 キラは囁いて、ラクスの頬にそっと口付けた。
 ラクスはくすぐったそうに微笑んで、キラの唇が触れたところをそっと手で押えた。


「わたくしも、何度もキラに、勇気付けられましたわ」

 二人は顔を見合わせて微笑むと、顔の距離を少しずつ縮めていった。



 キラの匂い、キラのぬくもり、キラの背中。

 ラクスはそのすべてが好きだった。



 キラがいなかったら?




 そんなことは考えたくもない、とラクスは思った。
 頭の中だけで首を振ってそんな悲しい意識を飛ばす。


 ふと唇が離れると、キラはまっすぐラクスをみつめていた。
 そしてまたラクスもそれに応えるように視線をやる。

 瑠璃色の瞳が、ゆっくりと揺れる。
 慈愛に満ちたそれは、ラクスの心をとても安心させる。

「ラクス、メリークリスマス。 去年は素敵なマフラーをありがとう」

 そういいながら、そっとキラは小さな箱をラクスの手に持たせた。
 手に乗る、本当に小さな箱。


「あら、今年はわたくしがうっかりしていましたわ……」


 キラからのプレゼントを受け取って、初めて自分がプレゼントを用意していなかったことに気がついた。
 お料理のことや飾りつけ、そして子供たちへのプレゼントで頭がいっぱいですっかり忘れていたのだ。


 ふふっと、キラは微笑む。

「とりあえず、開けてみない……?」

 ラクスの手にあるそれを指差して、キラは言った。

「……開けても良いのですか?」

「もちろん」

 キラは微笑んでラクスが箱を開けていく様を見守っていた。


 最初はリボン。
 リボンがはがされると外装が。
 そして最後に残ったのは小さな入れ物。

 それに何が入っているのかは予想できたけれど、それでもラクスはドキドキと胸の高鳴りを感じた。


 ぱかっと蓋を開けると、花が綻ぶような笑顔が広がった。

「……!」

「どう? サイズは大丈夫だと思うんだけど……」

 キラはラクスの手にある、リングをひょいっと掴んでラクスの左手を取る。当たり前のようにそれを、薬指にそっとはめた。

 ラクスはキラの行動を見ていることしか出来なかった。

 指輪をもらえたことも、それを左手にしてもらったことも、全てが嬉しかった。




 キラはゆっくりとラクスの耳に唇を近づける。


『―――……』


 キラが何かを囁いた、と同時にラクスの瞳から涙が溢れた。




「……はい」



 キラが囁いたあと、少しの間をおいてラクスは頷いた。


 ラクスはすがるようにキラに抱きついた。
 キラはそれを受け止めるように、優しく抱きしめ返した。






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あとがき
2005年クリスマスにblogでアップした作品です。