造られし魂の器
「初めましてですわ、キラ・ヤマト」
にっこりと微笑むその姿は今では誰よりも大切な人に酷似していた。
「……初めまして」
突然現れたその人物を見るや否や、嫌悪に顔が歪みそうになった。
しかし、それをどうにか堪え、その笑顔に答えるようにキラはぎこちなく微笑んだ。
「まぁ、そのように警戒なさらなくてもよろしいですのよ」
艶然と微笑むその姿は、あの少女に顔が似ているだけに、その違いをまざまざと見せ付ける。
優雅な足取りで一歩ずつキラの元へと近づいてくるその人物に、キラは懐に手を入れる。
そこには冷たい鉄の塊が忍ばせてある。
いつでも取り出せるように、しっかりとそれを掴んで目の前の少女の動向をうかがう。
「あらあら、そのような物騒なもの……」
クスッ、と笑うその姿はますます大切な少女−ラクス−とはかけ離れた。
似ているのは『見た目』だけなのだと、キラに再確認させた。
「あなたに、わたくしが撃てまして?」
自信たっぷりに少女は、まるで歌を歌うように言う。
「撃てない、ね。今は」
キラは含みの有る言い方で、その目の前の少女に告げた。
「君は誰?」
「私はラクス・クラインですわ。キラ・ヤマト」
ラクス、と名乗った少女はにっこりと微笑む。
それは先ほどまでとは違い、毒のない笑みだった。
キラは吐き気を覚えるのと同時に、何か言いようのない思いを覚えた。
「可哀想に……」
懐に伸ばされていたはずの手はゆっくりと目の前の少女の頬に伸ばされる。
触れた温もりが余計に胸を締め付ける。
触れられた少女はその行為の真意には気づくはずもなく、満足そうに微笑みを浮かべる。
キラはなんだかとても切なくなった。
「僕は君にそっくりな人を知っている。でも、君とは似ても似つかない別人だ」
きっぱりと、迷いもなくキラは言い放った。
大切な少女の姿が思い出され、キラの瑠璃色の瞳は優しく揺れた。その眼差しがすべてを、少女がどんなに大切かを語っていた。
目の前の『ラクス』は何も立ち尽くしながら、信じられないものを見るようなそんな視線でキラの瞳を見つめていた。
「ごめんね」
不意に出たのは謝罪の言葉。
ラクスはなぜ謝られたのかわからず、不思議そうにキラを見つめる。
キラは目の前の『ラクス・クライン』に哀しげな瞳を向け、ゆっくりと手を離す。
「僕は行くよ。今日は僕に会いに来ただけなんだろう?」
キラの問いかけに、『ラクス』はやっと我に返ることが出来た。
思い出したように、表情を急いで作る。
先ほどまでの余裕なんて、微塵も感じさせないくらい憔悴しきった顔で微笑む。
「ええ、以後お見知りおきくださいませ」
ドレスのすそをひらりと軽くつまんで、『ラクス』はキラに礼をする。
キラは複雑そうな表情を浮かべるだけで、口は開かない。
『ラクス』に背を向けてキラは歩き出す。
『ラクス』は何も言わずにその背中を見送る。また、いつか出会うだろう、と思いながら。
キラは歩きながら先ほどの『ラクス・クライン』を思い出す。
なんともいえない苦しさを、哀しさを覚えた。
何もない、『ラクス・クライン』。造られし、悲しき存在。
彼女は彼女として求められたのではなくて『ラクス・クライン』としてだけ求められた存在。
いつか、彼女は気づくだろうか。と、キラは思った。
(ラクス、君を守るよ)
凛としたその瞳は、しっかりと未来を見据えた。
言い訳
blogで書いたお話をちょこちょこっと修正。
偽ラクスvsキラみたいなお話。
本当に偽者は出てくるのでしょうか?
うーん。。。。
ラクスvsラクスも書きたい!