優しい嘘
パタン。
と、扉の閉まる音がした。
ラクスが帰ってきたのだとキラは直ぐに扉の方へ視線を向ける。
「おかえり、ラクス」
にっこりとラクスに微笑みかけたキラはラクスの様子がいつもと違うことに気がついた。
どこか悲しそうに、視線が定まることなく宙を彷徨っていた。
「ラクス?」
ラクスのそんな表情にキラは驚きソファから思わず立ち上がり、そして心配になり直ぐにラクスの方へと足を向けた。
「……ただいま、キラ」
曖昧だった視線が、ゆっくりとキラに定まるとやっと微笑を浮かべた。
しかし、その笑みにはいつものラクスの輝きはなく、どこか儚げにキラには映った。
二人の間に沈黙が流れる。
キラは何かを聞こうにも、言葉が浮かばずラクスを見つめることしか出来なかった。
二人はしばし見詰め合ったまま、その場に突っ立っていた。
沈黙を破ったのは、消え入りそうなラクスの声だった。
「……地球連合軍が、ザフトの新型機を奪って逃げたそうです……」
ラクスのもたらした言葉は、たくさんの疑問をキラの中に生じさせた。
新型?奪った?地球連合が?
そして、その話がいつかのそれと正反対だと言うことに気がついてキラは言葉を失った。
「……また、私たちは……私は……」
そう言葉を紡ぐラクスは、その瞳にたくさんの雫を溜めて流さないようにと必死にこらえていた。
そんな表情のラクスに気がついたキラは、ラクスの手をそっと取り自分の方へと引き寄せた。
「……大丈夫。カガリ達だって頑張っている。前みたいには、ならないよ……」
「けれど……」
キラはラクスの唇にそっと指を当てて、紡がれそうになった言葉をさえぎった。
「ありがとう……。僕は、大丈夫だよ」
ラクスはキラのことが心配だった。そしてキラにはラクスの表情だけで何を危惧しているのかがわかった。
ラクスはキラを失うことが、怖い。
それでも、彼が彼の意思で戦いに行くのを止めることも出来ない。
いつだって怖かった……でも、足かせにはなりたくなくて一度も告げた事の無い思い。
「大丈夫、何が合っても僕は君を守るし、何度でも君の元へ戻ってくるから…」
ラクスの柔らかい髪の毛をゆっくりと撫でながら、キラは耳元で囁く。
「それに、本当に戦争になってしまうかわからないし……」
それは、うそだ。
でも、今はその嘘にすがっていたいと二人は思った。
やっと安らかな日々を送っていたから……つかの間の幸せをもう少しだけ二人で感じていたいから。
キラはゆっくりとラクスの唇の自分のそれを重ねる。
ラクスは涙を流しながら、それを受け止め、そしてゆっくりとキラの背中に手を回す。
二人は少しでもお互いを感じていられるように、ゆっくりと溶けていった。
疲れて眠ってしまった、恋人(ラクス)の頭を優しく撫でてあげながらキラは窓の外の空をみた。
今はまだ、いつもの星空が広がっていた。
キラがラクスを撫でる手が止まると、何か不安に駆られたのかふっとラクスの瞳が開かれ、そしてラクスはその姿を探すように手を伸ばし、視線をめぐらせた。
その手にキラの暖かな温もりをみつけ、そして瞳にその優しい笑顔を見つけるとほっとしたようにラクスは微笑んだ。
「ごめん、起こしちゃったんだね」
キラの言葉にラクスは首を横に振って答えた。
「そう?それなら良かったよ」
キラはにこりと微笑んで、そしてまた窓の外へと視線を戻した。
ラクスもキラにつられるように窓の外へと視線を向けた。
たくさんの想い出のある、宙(そら)。
ラクスの視線は自然と悲しげに揺れた。
キラはそんなラクスを知ってか知らずか、ラクスの肩にそっと手を添えた。
『大丈夫』
ラクスは、その手の温もりにそんな言葉を聞いた気がした―。
まるで導かれるように、ラクスは夢の中へと落ちていった。
「君の見る夢が、せめて幸せな夢でありますように……」
キラはラクスの寝顔にそっと口付けて、そしてぴたりと寄り添ったまま眠りについた。
END?
第一話見た後、EDを繰り返し見て二人の表情を読んで書いてみました第一弾!
第二弾はあるのだろうか?(笑)
そして1話の始まりがすごい前回の話を彷彿させるので、書いてみました。
いつもキラばっかりラクスに守られていたので(笑)たまには逆も書きたいなぁと思って書きました。
しかし、微妙ですよね。
まぁ、自己満足なので良いのです!(ヲイ)