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「キラ!」

 エターナルがあと少しで被弾するところを、フリーダムが現れた。
 アスランはその姿を捉えるとすぐにその名を叫んだ。
 ラクスは、少しの間何が起こったのかわからず、目に飛び込んできた機体を追った。
 キラは次々にエターナルに降りかかろうとする火の粉を落とした。
 しかし、次の瞬間エターナルは被弾はしなかったものの爆風で船体が大きく揺れた。
「きゃっ」
 ラクスの体はその振動でぐらりとよろける。
 それを支えたのはラクスのすぐ横にいたアスランだった。
 アスランは内心ほっとした。
「ありがとう」
 辛そうな表情を少し浮かべながらも、そう言ったラクスはすぐにアスランから離れた。
 アスランはそんなラクスを見つめることしか出来なかった。
 ラクスを見つめるその瞳は梅雨の空のように曇っていた。
 ラクスの視線はキラの乗っているフリーダムに釘付けだった。
(オレはこの人の何を知っているつもりだったんだろう……)
 アスランは、そう思った。涙を堪えるかのように、少しだけ瞳を閉じた。
『こちらフリーダム。キラ・ヤマト』
 すべての敵を戦闘不能にしたキラから通信が入った。
「キラ!?」
 少し嬉しそうに上げられたラクスの声。
 その声に導かれるように、アスランはラクスの顔を見た。
 ラクスは本当に嬉しそうにモニターの中のキラを見ていた。
『ラクス?』
 キラの驚くような声が耳に入ったが、アスランは聞いてはいなかった。
 ただ、何か言葉を言うように息を吐いた。



「あの子、すごいね」
 カガリが言った。
 カガリの視線の先にはエターナル。そして、ラクスと話をするキラの姿が見えた。
「いいのか、お前の婚約者じゃないのか?」
「元、だけどな」
 アスランは自虐的にカガリの言葉につけたした。
 クサナギの中で婚約者だとキラに言われたとき、訂正しなかった言葉。
 それはどこか自分が彼女に期待をしていたからだと、今気がついた。
「オレは馬鹿だから……」
 彼女にとって自分は親に決められた婚約者だけだった。それ以上でもそれ以下でもなかったんだ……。
「ホント、馬鹿だよな……」
「でも、キラも馬鹿だと思うよ」
 もう一度自虐的に呟いたアスランに今度はカガリが言葉を付け足した。
「コーディネーターでも馬鹿は馬鹿なんだから、仕方ないよ」
 カガリは優しく微笑んで、アスランを見た。
「そうだよな……」
 アスランは苦笑いを浮かべた。
 カガリの言葉に少し救われた気がした。
 けれど、心の中に残った物悲しい思いはまだ消えそうにない。


 遠くで、涙を流したラクスがキラにすがっているのが見えたから。