穏やかな光
 久し振りに戻った自邸で、ラクスはキラにお茶を出した。
 そして、キラの横に当たり前のように腰を落とした。
 取り留めの無い、日常の話をしながら二人は穏やかな時をその身に感じていた。

 キラは近くにあった手に、重ねるように触れる。
「キラ?」
 ラクスは不思議そうにキラを見つめた。
「元気?」
 キラはそんな瞳を優しく受け止めて、にこやかに微笑んだ。

 戦争が終わり、ラクスは親善大使のような役割を果たしていた。
 ナチュラル・コーディネイターそんな垣根も無くラクスは歌を披露していた。
 そう、地球やプラントを何度も行き来していてキラとゆっくり話す間もなかった。
 例えキラがラクスのボディーガードのために付き添っていたとしても。

「はい、今日も元気ですわ」
 ラクスは至上の微笑を浮かべてキラに応えた。
「疲れていないかい? ここ最近ずっと行ったり来たりで……」
 キラはそっとラクスの肩を抱き寄せる。
「私は大丈夫です。ずっとキラも付き添ってくれていますし……それに、私のやれることですから」
 凛と言い放つその姿はいつ見ても眩しくキラに映る。
 キラはラクスの横顔に見惚れた。
「キラこそ、疲れていませんか? ずっと私に付き添ってくださって……」
 ラクスはそっとキラの額に手を当てる。
 キラの温もりがラクスの指に伝わる。

 キラはボディーガードとして地球・プラント間を行き来しているラクスに連れ添っていた。

「僕は大丈夫」

 ラクスの指を優しく掴むと、その手を引き寄せて今度は正面から抱き寄せた。
「キラ?」
 ラクスは少し驚きながらもゆっくりとキラの背中へと手を回す。
「僕は、まだ……」
 言葉は躊躇われ、キラの口に留まった。
「……キラ」
 ラクスはキラの言いたい事をなんとなく察した。
「こうやって穏やかなときを過ごしている今ですら、僕は君だけを思って、君を抱くことが出来ない……それなのに……」
 キラは切なそうにどこか遠くを見つめているようだった。
 ラクスは優しくキラの頭を撫でた。
「キラは、たくさんたくさん辛い思いをなさったのですから……無理に、全てを忘れなくて良いのですよ」
「違うんだ……。忘れられないんじゃない、ゆっくりと風化していくのが恐いんだ……」
 少しずつ薄れていく、彼女の表情が恐い。
 忘れたくないと、そう思ったのに彼女の微笑が少しずつ遠くなっているのがわかる。
 過ちの中重ね合った想いが、穏やかな時に解されて行く。
「忙しい、そう自分に言い訳して……逃げていたのかもしれない」
「キラ……」
 ラクスはそっとキラの頬に手を当てる。
 言葉をかけようと、たくさんたくさん考えるけれどラクスには何も思い浮かばなかった。
「……君にこんな風に弱音を吐いちゃダメだね」
 心配そうに見つめてくる瞳に、キラはため息をつくように言って苦笑いを浮かべた。
「……キラはきっと忘れませんわ」
 にっこりとラクスは微笑む。
 キラがどれくらい優しいかを知っているから、キラが言えなかった言葉があることを知っているから。
 だから、きっぱりと自信を持って言える。
「恐れなくても、ずっとずっと優しくキラの中に残ると……私は思います」
 ラクスはキラの胸に手を当てて、キラを見上げた。
 その表情は全てを包み込む聖母のような優しさに満ちていた。
「ラクス……」
 キラの瞳から一粒の涙が零れた。
 それをラクスはそっと指先で拭う。

―あなたはもう、泣かないで。

 ラクスの笑顔と、彼女(フレイ)の声が重なる。
 それはとても穏やかな声。
 キラの表情が優しく揺れる。

「ありがとう」

 キラは優しくラクスを抱きしめた。

END

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後書き
私の書くキララクは何で進歩が無いんでしょうかね……。
本当にごめんなさい。
すみません。
久し振りに書いたのにこんな作品で…本当にごめんなさい。(滝汗)