始まりの場所

 ラクスがアークエンジェルに保護されてから、どれくらいが経っただろう。
「退屈ですわねぇ」
 ラクスはピンク色のハロ―ピンクちゃんを手のひらでころころと転がしながら呟いた。
「でも、外へ出ると困ってしまう方がいらっしゃるから……」
 そう言いながら、茶色の髪の優しそうな少年を思い浮かべた。
 思い浮かべているうちに、ラクスの心に一つアイデアが浮かんだ。
「ピンクちゃん、お手伝いしてくれますか?」
 ラクスはにっこりと微笑んで、ピンクちゃんを見つめた。
 ピンクちゃんは『マイド、マイドー』といって、すんなりと鍵を開けた。
 そうして、ラクスの冒険が始まった。


 無機質な床、壁がどこまでも続くアークエンジェル。
 ため息をつきながら、キラはアークエンジェルを彷徨っていた。
 目的は無かった。
 ただ、座っているだけだと何だか落ち着かなかったのだ。
 この間拾ってしまった、あの救命ポッド。
 そしてその中にいたのは、女神だった。
 ふわふわのピンクの髪の毛に、透き通るような白い肌、そして青空を秘めた瞳。
 全てにおいて今まで出会った少女の中でダントツの美しさだった。
 創られた、と誰かは言うかも知れない。
 確かに否定は出来ない。
 けれど内面から溢れてくるあの優しさは、創られたものなんかじゃないとキラは思う。
 その優しさがなければ、彼女を形作る全てが嘘になると。

 ふと、立ち止まった場所でキラの目に飛び込んできたのは宇宙だった。
 ただ静けさを纏った闇夜の中に、たくさんの星たちが輝いていた。
「綺麗だなぁ」
 それは純粋なキラの心だった。
 張り詰めた空気の中、そんな風に外を見たことは無かった。
 そんなことを考えているうちに、AAの中にいる大切な友達も、自分も命を落としてしまうかもしれないから。
 余裕なんて、無かった。
 彼女が現れたあの日、キラの中では確かに何かが変わった。

「本当に綺麗ですわね」

 突然キラの耳に聞きなれない声が届いた。
 キラは驚いて、声の方へと振り返った。
 キラの視線の先には、ピンク色の髪の女神さまが微笑んで立っていた。(無重力なので正確には浮かんでいた)
「……あなたは、また」
 また出てきてしまったのですか、と言いかけて言葉に詰まる。
 その少女のことを考えていた矢先に現れた彼女。
 ため息なんかよりも、優しい気持ちが心の中に広がるのをキラは感じた。
「安心しましたわ」
 少女はにっこりと微笑んで、キラの側へとやってきた。
「安心?」
「ええ、あなたがそんな風に穏やかな表情をなさっているのを見て……」
 そういわれたキラは、頬を赤く染めた。
「そんなに僕はいつも穏やかじゃない顔をしていましたか?」
 ふう、と深呼吸をしてキラは苦笑いをしながらラクスに尋ねた。
「はい、いつも哀しそうだったり困っていたりしていらっしゃいましたよ」
 くすり、と少女は笑った。
「いつもですか?」
「ええ、いつもですわ」
 ラクスは即答した。
 キラはあまりにもきっぱりと答えられてしまい、一瞬固まってしまった。
「それにしても、宇宙に煌く星たちは綺麗ですわね。地球連合の船に乗っているという事も忘れてしまいそうですもの」
ラクスはさりげなく、話題を宇宙へと戻した。
「そうだね……こんな風に宇宙を見ていると僕達が……」
 キラはそこまで言って言葉を止めた。
 友人と戦わなくてはいけない今を思い出してしまったのだ。

 ラクスが不思議そうにキラを見つめると、やはり困ったような表情を浮かべていた。
「……早く終わると良いですわね」
 ラクスは、微笑みに願いを込めて呟いた。
「そうですね……」
 キラもそう祈って、宇宙の遥か彼方を見つめた。
 これから激化していく戦渦をまだ二人は知らない。
 絡み合う二人の運命と、そして想いはまだはじまったばかり……。


End


後日談。
キラはその後すぐにはっと思い出してラクスを部屋へと連れて帰ったそうな(笑)

Back

後書き
久々更新です。
今更ながら古いネタですみません。
なんか、これからを書くのも楽しいんですけど、何だか書きたくなりまして……。
キララクではないですよね(自爆)
御粗末さまでしたー(汗)