穏やかな時間

「アスラン、カガリ、キラの様子はいかがですか……?」
 エターナルの艦長として、色々とやる事が多いラクスはキラが眠ってしまったあとキラを起こさないようにして部屋を出て、アスランとカガリにキラを託していたのだった。
「ああ、今はぐっすり眠っているよ」
 ラクスに答えたのはアスランで、カガリはアスランの横に隠れるようにしてラクスを見ていた。
 ラクスはカガリのそんな視線には気がつかないフリをして、キラのほうへと向かってきた。
 そのラクスの手を取り、アスランはラクスを引き寄せた。
「ありがとう、アスラン」
 にっこりとラクスは微笑を向けた。
 アスランは特に何も反応を示さなかったが、カガリは何故かラクスの顔から視線を外した。
「二人ともお疲れでしょう? 一度休んだほうが良いと思いますわ。休める時間はこれからどんどん少なくなると思いますし」
「でも、ラクスだって疲れているだろう?」
 至極普通のようにアスランはラクスに言った。
「わたくしは……大丈夫ですわ、アスラン」
 少し言葉に詰まりながらも、ラクスは微笑を絶やさずに返事を返した。
「無理はしないでくださいね」
 アスランは一向に弱音をはかないラクスにやれやれと小さくため息をついた。
「ええ、アスランもカガリもゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます」
 カガリに行こうか、といいながらアスランは手を差し出して、カガリは躊躇いながらもその手を取った。
 丁度そのとき、キラが目覚めた。

「ううん……」
 キラの声がしたと同時に、三人はキラへと視線をやった。
「「「キラ」」」
 三人は同じタイミングでその名を呼んだ。
「あれ、みんな……」
 キラは三人の顔をきょろきょろと確認し、少しの逡巡の後、何事もなかったかのように「おはよう」と言った。
 不意を突かれた三人は、一瞬唖然としてその場にふわふわと漂った。
 一番最初に我に帰ったのはラクスだった。
「おはようございます、キラ」
 安らかな眠りだったのだろうと察して、ラクスは満面の笑みでキラへと応えた。
 ラクスに続くようにアスランとカガリも「おはよう」と口を開いた。
「気分はいかがですか?」
 ラクスはゆっくりとキラに近づいて、起き上がろうとしているキラを支えた。
「うん、ずいぶん楽になったよ」
 キラはラクスに支えられて体を起こすと、カガリとアスランに目を向けた。
「二人とも、どこか行くのかい?」
「いや、少し休もうかと思って」
 きょとんと尋ねてくるキラに、アスランはそのままを伝えた。
「そうか、二人とも側に居てくれたんだ。ありがとう」
 キラは素直に礼を述べた。
「たいしたことは何もしていないけどな」
「そうそう、ラクスが大体用意して行ってくれたから、私たちは実質何もしていないようなもんだぞ」
 アスランの言葉にカガリが付け足した。
 その言葉を受けて、キラはラクスを見た。すると、ラクスはいつものように笑顔を浮かべて其処にいた。二人の言葉に何か言うでもなく、そして頷くでもなく微笑んでいた。
「ラクスも忙しいのに……ありがとう」
 ラクスの微笑みに真実を見たキラは、穏やかな視線をラクスに向けた。
「いいえ、私はしたいと思ったことをしたまでですわ」
 それはとても自然なことだと、ラクスは言った。
 キラはそれが嬉しくて、ついラクスを抱き寄せた。その場に、アスランやカガリをいたという思考は一瞬どこかへと飛んで行ってしまった。
「キラ」
 ラクスも二人のことはお構いなしに、キラの背中へと手を回す。

 アスランもカガリも大きなため息を吐きたい気分を抑えて、お互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「それじゃあ、俺達は行くよ」
「ゆっくり休めよ、お二人さん」
 目配せで部屋を出て行くことを決めた二人は、一応キラとラクスにそう告げた。
「あ、ごめん」
 キラは二人の声を聞いてその存在を思い出した。そして、顔を赤らめてラクスと体を離した。
 ラクスはキラの様子を見つめてくすくすと楽しげに笑っていた。
「アスラン、カガリ……ありがとう」
 キラは二人にたくさんの思いを込めて、精一杯の言葉を送った。
「この戦いが終わったら、色々とお礼をしてもらうからな」
 アスランはからかうように言って、カガリより先に部屋を出た。
「キラ……あんまり一人で背負い込むなよ」
 訊きたいことはあるけれど、カガリはそれを我慢してそう言った。
 キラにはそのカガリの思いがとてもよくわかった。だからこそ、もう一度言った。
「カガリ、ありがとう」
 キラの言葉を聞くとカガリは「じゃあな」とアスランのあとに続いた。

「……ラクス、君は大丈夫かい?」
 側に居る人が、休んでいないということは眠っていたキラにだってわかった。だから、自然にそんなセリフが零れた。
「ええ、大丈夫ですわ。まだ、やれます」
 ラクスはキラの心配を払拭するように、力強い笑みを浮かべてキラを見つめた。
「あまり、頑張りすぎないでね」
 キラはラクスの頭をそっと撫でながらラクスを見つめ返した。
「はい」
 二人はほんのささやかだけれど、とても穏やかな時間を肌で感じた。
 お互いにゆっくりと顔を近づけて、そっと唇を重ねた。

End

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