未来を祈る手
他の面々と話終わると、また少し時間が空いてしまっていた。
やるべきことはあるけれど、キラはまたラクスの元へと訪ねていた。
特になにかあるわけではないが、なんとなく足がそちらへと向いてしまっていたのだ。ラクスは訪れたキラを招き入れて、二人はこれからの敵について色々と話していた。
時々父親のことを思い出すのか、ラクスの顔が曇る事があった。何度かその表情に気がついたキラは、ある時とうとう抑えきれずにラクスの体を抱き寄せた。
少し荒々しく重ねられる唇に、ラクスは何も言わずに優しく答えた。
そして、胸に湧き上がる熱い想いに負けてキラはラクスをどさりと押し倒した。
ふさあと柔らかいピンクの髪が真っ白なシーツの上に広がる。
ラクスは真っ直ぐとキラを見上げ、キラもまたラクスを見つめた。
お互いの真意を探るように二人は視線を絡ませ合い、どちらかが動くのを待つように、そのまま時を遊ばせた。
その空気を最初に絶ったのはキラだった。ふんわりと波打ったラクスの髪の毛を優しく手に取り、そして宝物に触れるように恐る恐る手に取ったそれに口づけた。
最初はどう応対していいのかわからなかったラクスだったが、すぐにキラにされるがままに、キラの行動を受け入れるように微笑んだ。
「キラ」
ラクスは愛しそうにその名を呟いた。
『キラ――』
その瞬間キラの中で、言葉が重なった。
はっとして、キラの指からさらさらとラクスの髪が零れ落ちた。
『キラ、私の思いがあなたを守るわ――』
濃いピンクの髪の毛、少しわがままそうな瞳、そして真っ白な肢体がフラッシュバックのようにキラの中を通り過ぎて、キラの心を止めた。
「キラ?」
不思議そうにキラを見上げるラクスは、キラの視界から消えていた。
キラの目の前に現れたのはラクスのそれよりも濃い、ピンクの髪を持った少女だった。
ラクスは何が起こったのかわからず、なにかを確認するかのようにキラの頬に手を伸ばす。が、キラは目を見開いて、とっさにそれを振り払った。
まさか拒否されるとは思わなかったらクスは、びくりとその手を引いた。
「キラ? どうしたのですか?」
そうラクスが尋ねても、キラは何も答えない。
ラクスの方を向いていながらも、視線はラクスを捉えては居らず、どこか遠い場所を見ているようだった。
「キラ!」
ラクスはそれに気がついて先ほどよりすばやくキラの頬に手を伸ばし、大きな声で何度も名前を呼んだ。
「キラ!」
「!!!ラクス?」
キラの視線がようやく自分を捉えたとラクスが思ったその次の瞬間、キラの瞳から涙が零れた。
「キラ?」
突然すぎてラクスには一瞬何が落ちてきたのかわからなくて、びくりと身を震わした。しかし、すぐにキラの嗚咽が聞こえてきたので、それがキラの涙だと言う事を知った。
「ラクス……」
キラはそう呟きながら、ラクスの顔を手で優しくなぞって、唇に触れた。
「ごめんね……」
キラの痛切な表情にラクスは気圧されてしまった。
幾度となく悲しい顔は見てきた、けれど今キラが浮かべるのはそんなものの比では無かった。ラクスはかける言葉を失い、ただ何も出来ない自分を責めながらキラを見つめた。
「僕は、あなたに触れる資格なんて……ないんだ」
ラクスの唇に当てられて指は、ぎゅっと握られた。
次々とキラの瞳からは雫が落ちてラクスの頬を濡らした。
「キラ……」
ラクスはそれを少しでも拭ってあげようと手を差し出したが、それはキラ本人によって邪魔されてしまった。
「あなたは、どこまでも優しくて、綺麗で……」
キラは言葉を続けることが出来なかった。
「キラ、あなただって優しいではありませんか……」
ラクスは少しでもキラの言葉に光を届けようと言葉を発した。しかし、その言葉はキラの心には届いていないようだった。
少し考えて、ラクスは口を開いた。
「私が、キラを好きだと言う事はキラが触れる資格があると……そう言うことにはなりませんか?」
真っ直ぐにキラを見据えて、ラクスは凛と言った。
「ありがとう……でも、僕は……」
(フレイの存在をそのままに、これ以上あなたに触れることはできない……)
決してラクスには言いたくない、自分の過去、間違い、後悔がキラの心に渦巻いた。
「私はキラが好きです。たとえ、キラがどのような道を歩んで来ていても、私はキラと同じ未来を歩みたいと願います」
キラはラクスの思いを知り、余計に涙を零した。
キラは涙をそのままにラクスを見つめ、ラクスは当たり前のように微笑み返した。
「今すぐ、とは言いません。いつか、その手で私に触れてください……」
「ラクス……」
ラクスは宙ぶらりんに浮かんでいたキラの手をとり、その甲に優しく唇を当てた。
「キラ、一つだけ約束してください……」
「何を……?」
「……私を導いてください」
言葉を確かめるようにラクスはゆっくりと言葉を紡いだ。
「あなたと、笑い合える未来に……」
死なないで――。
と、はっきり口にすることは出来ないけれど、ラクスはそう祈りながら言った。
「僕もその未来を望んでいるよ……」
約束するまでもない、とやっとキラは微笑を浮かべた。その笑顔に安心したのか、ラクスは涙を浮かべた。
それは悲しみの涙ではなく、安堵の涙。
だから、ラクスは涙を浮かべながらも満面の笑みを浮かべてキラを見つめた。
今しかないのではなく、未来にこそ二人の居場所はあるのだと信じて、二人はそれぞれの持ち場へと、戦場へと戻った。
明日のために、夢みた未来を実現するために――。
END
後書き
何気にフレイのことは書きたかったんです。
フレイがいなくなって二人は幸せ、それではちょっとイカンなぁと思って。
キラがフレイと築いた時間は確かに捻じ曲がってはじまりましたが
それはそれで事実なんですよね。
しかし、何かワンパターンですよね(−−;
でも、年齢指定にならなくてよかったです。
書く前はもしかして!?と思っていたので…(笑)