桜の時

 僕は枯れ木の立ち並ぶ道で立っていた。
 空は雲に覆われ、どんよりと今にも落ちてきそうなくらい暗かった。
 光が見えた。
 だから、僕は足が重いような気がしても気にせず歩き始めた。
 光を目指して。

 どれくらい歩いても道の終わり、光のもとへとはたどりつけずに僕は疲れて立ち止まったのだ。
 座ろうかと思ったのだけど、何故かできなくて、仕方なく僕は曇り空を見上げた。
 灰色のカーテンがどっしりと光をさえぎっていた。
 冬の日のようにどこか物悲しくて僕は消えてしまうかと思った。
 いや、もう消えても良いと思った。
 大切な友達を殺した僕。
 そんな僕なんて、いないほうが良いんだ。
 
 僕は友達だけじゃなくて、とても尊敬できると思った人も殺した。そして、その人の大切な人も。
 殺して殺して、それなのに僕はトールを守れなかった。
 結局無力だった。
 奪うことのできない僕は、無力だった。
 仕方がない、なんていうのは言い訳で、もしかしたらほかに道はあったんじゃないかと思う。
 そういう力の使い方も、あって良い筈だだった。
 僕はいつから間違えてしまったんだろう。

 ……傷つけてしまったフレイ。
 彼女の心の傷を感じながら、僕は与えられる温もりを拒むことは出来なかった。
 別れもいえぬまま、なんとなく居心地が悪くて逃げるように僕は戦いへと赴いて、結局別れも、ごめんもいえなかった。
 いや、違うんだ。
 僕はもっと違うことを彼女に言いたかった。
 僕は間違いなく彼女に支えられていた。
 彼女がいなかったら僕はもういなかったかもしれない。
 もし、もう一度会えたなら……伝えたい、ありがとう……と。
 一粒、涙が頬を伝ったのを感じた。



 足元がぐらりと揺れて、僕は視線を足元へ落とした。
 すると、足が透けていた。
 そう、もう終わりなのだと悟った。
 それも悪くないと思った。
 トールもアスランもいるのだから……。


『トリィ、トリィ』

 不意に、それはとても不意に訪れた。
 懐かしい声に、僕は思わず空を見上げてその姿を探した。
 そして、目にうつったのは親友にもらった大切なトリィ。

「ああ、トリィ。ごめんね、君も一緒に行こう」

 僕は手を伸ばしてトリィを招いた。
 しかし、トリィは僕の手には止まらず僕のうえをぐるぐると飛んでいた。
「どうしたの??」

 僕が不思議そうに呟くと、トリィは消えた。

「トリィ!!?」

 ふと僕は温もりを感じた。
 誰かが僕の手を取ったのだ。

「キラ、行っては駄目です」

 それは優しくも力強い声。
 意志の通った、透き通る声。
 随分昔に聞いたことのある、声。

「え?」

 僕は確かめるために、振り返った。
 それと同時に、世界は光で包まれた。
 そして、薄紅色の花が一瞬で開いた。

 僕の視線の先には、ピンクの髪のお姫様が立っていた。
 いや、たっていたというより彼女の笑顔が目の前に溢れていた。
「ラクス…!?」
 ラクスはそっと僕の顔に手をのばして、僕の唇に触れた。

「行ってはだめです、キラ……。いえ、逝かないで…キラ」
 力強い視線が、揺れて僕の視界から消えた。
 その瞬間、優しい温もりが僕の体を包んだ。
「ラクス……」
 ラクスは僕の胸の中にいた。そして、顔を上げずにその胸にうずめていた。
 だから、表情は見えなかった。
 けれど、その小さな肩が震えているのを感じた。

「大丈夫、僕は逝かないよ」

 僕は震えるラクスの体を包み込んだ。

「絶対、私のもとへ帰ってきてください……」

 涙を瞳にたくさん溜めたラクスが僕を見つめていた。
 僕はそんな彼女に優しく口付けた。


 それは未来の予感…。
 二人を結ぶ未来への、予感。



 世界に光が溢れた。

 そして僕の意識も遠のいた。
 少しずつ、記憶が薄れていくのを遠くで感じた…。


 僕が目覚めたのは、天国ではなくプラントのラクスの家だった。
 

END

あとがき
ラクス邸で目を覚ます前に見ていた、夢の話を書いて見ました。
桜!と、思っていたはずなのにずれてます(自爆)
駄文で本当にすみません(汗)