Happy Birthday





 イザークは自室のモニターを睨みつけながら、ため息をついた。
 あの事を言うかどうか躊躇っていた。
ライバルの様な関係で、まともに話をしたこともない相手に、それも突然どう伝えたら良いのか考える。
しかし、ぐるぐると思考は巡るものの答えは出ない。

 そもそもこの間、悩んだ末に連絡を入れたところ、どちら様か訊かれて、正直に素性を明かしたところ『イタズラならやめてください』と言われて、問答無用で通信を切られたのであった。
 そりゃそうだろうとは思ったが、それでももしかしたらという淡い期待は見事に打ち破られた。
 また通信を入れてもきっと、同じことになるだろうとイザークは溜め息をついた。
 ふと通信機に手を伸ばて、手を止める。
「そうか、そうしよう」
 と、呟いて素早く手を動かした――。





ラクスの毎日は政務に追われていた。
プラント最高議長としてやらなくてはならないことばかりであった。



 ある日、何故か議会の面子はバタバタとしていた。
 ラクスは不思議に思いながらも、目を通さなきゃいけない書類達とにらめっこをしていた。

「ふぅ」
 ラクスは小さくため息をついて書類から目を離した。
 気にしないように、としていたがやはり周りが気になってしまって、なんだか落ち着いて仕事が出来なかった。
 書類をデスクに置くと、すっと立ち上がりゆっくり扉の方へ近付いた。
 そしてそっと扉を開けて部屋の外の様子を窺った。
 人の気配はするが、特に誰も歩いてはいない。
 それなのに、何故バタバタしているように感じたのかと、首を傾げた。
(気のせいでしょうか?)
 それにしてもあまりにも気配が多い。
 納得できないものの、姿が確認出来ないので、気になりつつも扉を閉めた。

(もしかしたら疲れているのかも知れませんわ)

 ここのところずっと部屋へこもって書類とにらめっこ。
 外に出るのは議会の為か、演説の為くらいだけだった。そう、休みと言う休みは皆無だった。



 だから、今日がどういった日かすっかりと忘れてしまっていた。






「ラクス様はご自分の誕生日すら忘れて、仕事にふけっている」

 と、オーブにいるキラに伝えてきたのは意外にもイザークだった。


 ラクスは、他人のことはキチンと覚えているが、自分のこととなると疎い。
(そこがまた良いところでもあるんだけどね)
 ラクスの姿を思い浮かべてキラは小さく微笑んだ。
 ラクスが覚えてないのなら――。

 キラは何かを思いついたかのように微笑みを浮かべたまま頷いた。



「アスラン・ザラだ」

 イザークが見つめるモニターに映ったのは、アスランだった。
 イザークはアスランに連絡をとってもらおうと思い付いて、実行してるわけだ。

「珍しいな、イザークが連絡をくれるなんて」
 モニターに映ったアスランは驚きを隠せないでいた。

「俺だって好きで貴様に連絡をいれたわけではない」

 アスランの反応に、イザークは若干苛ついて、反射的に睨み返す。

―アスランを認めてはいるが、やはり内心では色々と思うところがあるのだ。


「何かあったのか?」
 アスランはそんなイザークの視線に気付かないフリをして、口を開いた。
 イザークはアスランに全て頼むつもりで、全てを話した――。



「そういうことか、それなら、直接言ったらどうだ?」
「貴様、今俺の話を聞いてなかったのか?」
 アスランの返答に、イザークは薄く青筋を立てた。
「直接、って言っただろ?」
 そう言われて、イザークはようやくアスランの言おうとしていることがわかった。
「しかし、どこに連絡して良いのか俺は知らない」
「それなら俺が教えてやるよ」
 アスランはさらりとイザークに答えた。
「い、良いのか?」
 快諾されすぎて、イザークはなんだか不安を感じた。
「大丈夫、ラクスのことだし。まぁ、もしイザークからの通信が嫌だったら、通信コードを変えるだろう」
 イザークはアスランの言葉に妙に納得させられた。
「仕方ない、俺が連絡するか」
 何かを教えてもらう人間の態度じゃない、とアスランは苦笑しながらキラの連絡先をイザークに教えた。





 イザークはアスランとの通信を切ると、すぐにアスランに教えてもらった通りにキラに通信を入れた。

 ザザザっと言う音の後『誰ですか?』と言う声が聞こえた。
 誰かわからないままでは、顔は出さないつもりか。とイザークは名を名乗った。 すると、砂嵐のようだった画面がぐにゃりと歪んでゆっくりと声の主を映し出す。

「イザーク…?」

 映し出された人物、キラは、不思議そうな眼差しをイザークに向けていた。

「こんにちわ、はじめまして?」
「ああ、そうだな」
 お互いにまともに顔を付き合わせるのはこれが初めてだった。
 戦場では何度も敵として戦ってはいたが、一応戦いに終止符が打たれてからはと言うと、お互いにお互いの立場上顔を合わせる機会なんてなかった。
 キラはまじまじとイザークを見つめていた。
「アスランに聞いた」
 イザークはキラの眼差しの意味を、どうして知ってるのか?と、言う風に受け取って答えた。

「あ、うん。ついさっき、アスランから連絡があったから。まさかこんなに早く連絡が来るとは思わなかったよ」
 キラは微苦笑を浮かべた。

「挨拶はまぁ良い」

 イザークはコホンと咳払いをして、モニターに映るキラにゆっくりと視線を向けた。
 
 そして本題に入った。





  

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あとがき。

手直しも何もしてませんが(−−;