月夜の祈り
あの一件から1ヶ月が経とうとしていた。
仲間達はすぐには元の生活には戻らず、エッジの復興に手を貸してくれた。しかし、それも半月もすると一人、また一人と自分達の生活へと戻っていった。
そしてバレットはマリンと離れるのを惜しみながらもまた旅立っていった。
家に寝泊りする人々がだんだんと減っていくのをティファは寂しく見つめていた。
それでも、以前より寂しくはないな、とクラウドを見ては思う。
カダージュ達の一件から、大切な家族が戻ってきた。
もちろんストライフ・デリバリーサービスを続けているので、相変わらずなかなか会えないけれど、それでも『家』にいるというだけで少しだけほっとできた。
ただ、それと同時に「また居なくなってしまったら?」という不安もよぎる。
仲間達が居るうちはにぎやかでそんなことを考える暇も無かった。
もちろん、今も仕事は忙しいからなかなか考え込まずに済んでいる。
それでも夜になり子供たちを寝かせて、店を閉めて片づけや明日の仕込みが終わると一人の時間が出来る。
ふぅとため息をついて座り込む。その視線は店の出入り口に向けられた。
「……クラウドは、まだ、か」
遅くなる、と簡素に言って出て行ったのでまだ帰ってこないだろうとは思っていたけれど、それでもちょっと寂しくなる。
「たまにはおかえりなさい、って言いたいな……」
声になるかならないか程度の、ほんのささやかな呟き。
それはティファの本音だった。
いつも気がついたら帰ってきて、朝眠る子供たちの顔を覗き込んで、そしてティファに一言かけてクラウドは出て行く。
前とは明らかに違う。
クラウドが家族に近づこうとしていることを感じることができて、ティファは少し嬉しくなるのだ。
そんなことを思うと、感じていた不安は少し和らいでいく。
「寝ようかな」
ぱたん、と売上など細かいことが書いてある台帳をぱたりと閉じて立ち上がる。
そして自室へ戻る前に子供たちの部屋をそっと覗きこんで、二人の寝顔を確認した。
二人ともすやすやと穏やかに眠っているのがわかると、ティファから自然と笑みがこぼれた。
それからようやく自室へと戻り、眠りについた。
いつから、だったろうか。
ティファは明け方、目が醒めるようになっていた。
そして、ちらりとクラウドの部屋を覗き込んでその寝顔を確認できると、誰にも知られないように、そっと家を出る。
月も星もまだキラキラと瞬いている。
エッジの町並みは街灯以外の光は洩れてない。
月明かりだけを頼りに、ティファは歩く。
目的地は決まっている。
しばらく歩くと、その目的地の前へたどり着く。
目の前には、ぼろぼろになってしまったけれど月明かりを浴びて神秘的に輝く教会。
エアリスの教会は、昼間は賑わっているけれど夜になると誰一人いない。
昔だったら、クラウドに会えたのかしら?と思いながら、ティファはその場所に足を踏み入れる。
水があるだけに、ひんやりとした空気に包まれているその場所はとても神聖な場所のように思えた。
「また、来ちゃった……」
これが、何度目になるかな?
心の中で呟きながら、首をかしげ池のほとりにしゃがみこむ。
池を覗き込むと自分の姿が映る。そして、そのもっともっと深いところにはっきりは見えないけれどうっすらと、優しいその人物がいるように思える。
誰にも聞こえない声で、会話をする。
もしかしたら、独り言なのかも。とティファは思うけれど、それでもこうやって誰かに聞いていてもらえてる、と思うとそれだけで気持ちが軽くなるように感じられた。
もちろん常に、そう。というわけじゃない。
水面をぼーっと見ながら過ごすことの方が多い。
そして思い出したように立ち上がり、何事も無かったように家へ戻る。
家に戻るとクラウドの朝ごはんの準備やお店の開店の準備をする。
そうやってまた一日が過ぎていく。
また夜は思い立ったように、あの場所へ行くのだ――。
誰にも気づかれてない、とティファは思っているけれど本当は……。